「言いたい放談」<14>(2007年11月9日)
三笑亭夢之助さんが、島根県安来市の敬老会で舞台に手話通訳が立ったため、「気が散る」などと発言して通訳が客席に降ろされたことが話題となり、新聞に大きく取り上げられました。噺家の一人として一言・・・。もし私がその立場にあったなら、やはり同じような行動をとっていたと思います。
何の予告もなしに通訳の方が横に立たれたら驚いてしまいます。そもそも落語とは、一人で大勢の役を演じ分ける芸。お客は演者を見ながら同時に脳裏に映像を描くのです。そこへ通訳が出ると、瞬時に「映像」が壊れてしまいます。昔、報道カメラが落語の最中に舞台に上がって客席を撮る姿をよく見ましたが、あれと同じです。
これが講演なら話は別。実際、夢之助さんも講演のときは手話通訳の方を横にニコニコと喋っておられます。でも、落語は別。それが通るなら、歌舞伎やミュージカルに手話通訳が登場してもよいことになりますよね。
念のために申し上げますが、私は手話通訳は素晴らしい仕事だと思っています。流暢に訳される姿に尊敬するばかり。ただし、どこの世界にもTPOがあります。落語はすぐに訳せるものではありません。どうしてもと言うなら、ほかのお客の目障りにならない位置で行う配慮をお願いしたいです。
そんな中、当日の夢之助さんは観客に「私の気が散ってネタを間違えたらごめんなさいね」と言いつつ、通訳の方と一緒に会場を笑いの渦に持って行ったそうです。翌日の地元紙には大盛況の様子が報道されました。そのことが言いたくて・・・。夢之助さんはとても心の美しい人ですよ。