小米朝流「私的国際学」<24>(2001年6月23日)
サーカスに対する概念が変わってしまった。大阪南港の特設テントで『サルティンバンコ』を観た瞬間に・・・。それまでサーカスと言えば、象が出て、熊が出て、ピエロが出るものと決まっていた。が、ここは違う。人間だけだ。舞台正面に置かれた楽器群――ドラム、キーボード、サックス、ベース、ギター。5人が奏でるポップなサウンドにのって登場する役者はダンサーそのもの。軽やかに歌い、踊り、いつしか曲芸となる。
「なんと洗練されているのだろう」
1982年、大道芸人たちが一つのショーを創ろうと、カナダのケベック州べサンポールで産声を上げた。チーム名はシルク・ドゥ・ソレイユ。フランス語で“太陽のサーカス”という意味(ケベック州の公用語はフランス語)。今年は『サルティンバンコ(大道芸人)』という彼らの代表作で日本を巡業している。
綱渡りやジャグリング(四つ玉)など、いわゆる普通の出し物なのだが、随所に工夫が施されている。フラメンコが曲芸になったり、空中ブランコにバンジーが加わったり・・・一味違う。真髄を見たのは、道化役が観客を舞台に上げた時。唐突にどんどん演技をさせるのだ。素人のパフォーマンスに満場割れんばかりの拍手と笑いの連続。言葉は一切使わず、すべてパントマイムで伝える。これぞ大道芸人の底力!
時々、天井付近のほのかな照明の中で、下の集団に合図を送ったり、彼らを操るような動きをする人物が見え隠れする。気になって、後でパンフレットを読んで驚いた。「マスク(仮面)を付けている人が多いのにお気づきでしょう。彼らは個人として顔を持たぬ“群衆”の象徴です。周りで起こることを傍観するだけ。与えられたルールに疑問を持たずに従うだけ」とある。ビッグトップに立つ人と、下で踊る群衆。すごい哲学だ。
国境も言葉の違いも越えて互いに語り合える世界の到来――21世紀はサルティンバンコの時代か。