小米朝流「私的国際学」<31>(2001年8月25日)
私はよく物を落とす。傘、メガネ、腕時計、コート・・・。だが、大事なものは必ず返ってくるから有難い。
先月、運転免許を落としたが、見知らぬ方が自宅まで届けてくださった。今月は東京で携帯電話を紛失。でも次の日、派出所に届いていた。その10日後、劇団四季の『ハムレット』を観るために近鉄劇場へ・・・。トイレに貴重品の詰まったセカンドバッグを置いたまま、芝居に没頭した。帰宅後、ようやく忘れたことに気づき、顔面蒼白。でも、翌朝、ちゃんと劇場の事務所にあった。
つくづく日本に生まれてよかったなぁと思う。そういや四条大橋を歩いていた時、大声で追いかけてきたおばちゃんから落とした財布を手渡されたこともあったっけ・・・。外国では、こうはいかぬ。
以前、パリを旅行したときのこと。とあるカフェでパリジャンよろしくレモンジュースを飲んでいると、隣の席の老夫婦が支払いを済ませて出て行った後に、カバンが置き忘れてあった。それを男前のウェイターが造作なく傍らのロッカーへ投げ入れた。数分後、老夫婦があわてて戻ってきて「カバン、カバン」と言っている。すると彼は、両手を軽く上げて、「知らない」とぬかすではないか。
私は「◎△×!」と訳のわからぬ言葉を発しながら、ロッカーを指差した。すると彼は「ああ、あれか」という顔でカバンを取りだした。夫婦は私に何度も礼を言って立ち去った。くだんのウェイターは、別に悪びれた様子なく、さっそうと仕事を続けた。
これが今のパリである。日本では考えられない(実は、古典落語に一例だけはあるが・・・)。外国人観光客の日本人に対する印象は「意外と親切だ」という回答が最も多い。まだまだこの国も捨てたもんじゃない。
一部の心なき者による窃盗事件も存在するが、大多数の善良な日本人よ!正義感とやさしさを失わずにいようね。そして、「ここは住みやすい国だよ」と胸を張ろうではないか。今後、私が物を落とした時のためにも・・・。