「現代のことば」<9>

エスカレーターに乗る時、大阪人の私は、他人が左側に立っているだけで無性にイラついてしまいます。エスカレーターは左側を歩くもので、立ち止まる場合は右に寄ると決まっているからです。大阪では・・・。

 

ところが、東京では左側に立つ習慣があるため、それが全国に広がり、今や大阪以外では“左立ち”が当たり前になってしまいました。もちろん、京都は大阪になびかず・・・嗚呼、悲しいなぁ。

 

実は、“右立ち”こそが世界基準(先進国のスタイル)なのです。

 

大阪で“右立ち”が定着したのは、昭和45年の万博の頃でした。当時、まだまだ珍しかった外国人観光客をスマートにお迎えすべく、日本で始めて導入されたムービングウォーク(動く歩道)では「立ち止まらずにお歩きください。お立ちの方は右側に寄ってください」という看板を掲げ、その結果、エスカレーターでも“右立ち”が徹底されたのです。

 

なぜ“右立ち”が理に適っているのか――。そもそもエスカレーターは歩行を補助する機具として開発されたもの。ラクに歩くための装置でした。

 

そして、人間は本能的に左側通行する生き物。右利きの人が多いことが、その理由。商店街でも必ず左側を歩くはず。「人は右、車は左」と交通ルールを定めても、人は左を歩くのです。

 

江戸時代はそれが顕著で、左の腰に刀を差していた武士はもちろん、馬も駕籠も大八車も左側通行。「人も左、車も左」だったのです。

 

で、左側を歩いている人がエスカレーターに乗った時、流れに従うならば、そのまま左側を歩くことになりますよね。疲れて立ち止まろうとした人だけが、後ろの人に道を譲るべく、右に寄るというわけ。どうです、とても合理的でしょ?

 

ところが、関東の人はエスカレーターに乗った途端に立ち止まる人が多いため、左側に行列ができ、歩きたい人は右側から追い抜かざるを得なくなり、逆転現象が生じてしまったという次第。

 

皆さん、ここらで日本も世界基準に合わせようではありませんか。些細な事象からこそ「おもてなし」の心が芽生えるもの。東京オリンピック開催に向け・・・こちらは競技場の見直しに比べたら、うんと調整しやすいはず。

 

本日をもって、私は「日本エスカレーター右立ち推進協議会」の会長に就任します。未だ会員は一人もおりませんが、“右立ち”を「現代のことば」の最右翼に据え、今後は右肩上がりに活動をエスカレートさせ、2020年には『日本右立ち絵巻』を完成させる所存であります。

 

そこで、京都の皆さまにお願い。大阪人の私がいくら喧伝しても、東京人は聞く耳を持ちません。でも、京都の人が一言「世界基準に合わせまひょ」と仰るだけで、東京人はなびくのです。日本を動かすのは京都!さあ、あなたも今日から“右立ち”で!!