2012.06.23 「上方文化再生フォーラム──羮(アツモノ)に懲りて…!」

22日(金)、大阪・千日前のトリイホールは“羮”談義で熱気に包まれていました(^ー^)

 

毎年、大阪ミナミの商店会の方々が中心となって開催しておられる上方文化再生フォーラム。私は数年前から茶道家の佃一輝(ツクダ・イッキ)さんと一緒に出演させていただいております。佃宗匠は、大手通に一茶菴という庵を構え、定期的に煎茶懐石を開いておられる文人です。

 

フォーラムでは、毎回一つの食材(もしくは食品)にスポットを当て、それに纏わる蘊蓄を語り合います。尤も、私の場合、大抵きき手になっておりますが(^o^ゞ

 

今回のテーマは羮。「羮(アツモノ)に懲りて、膾(ナマス)を吹く」という諺は有名ですよね。ある椀物を口にした時、あまりの熱さに驚いて、今度は酢味噌あえをフーフー吹いて食べたという故事から生まれた諺です。今日では煮物の餡掛けが羮の大半を占めるようになっていますが、太古の昔(孔子の時代)は羊を丸ごと蒸し焼きにして煮込んだものだったとか…。

 

春秋・戦国時代の書物、四書五経の中の「礼記」にその料理法が載っているのだそうです。でも、日本には江戸時代になっても羊という動物にはまずお目にかかることができなかった。しかし、書物には載っている…。そこで、羊以外の食材でそれに近いものを作ろうとしたのです。いわゆる「見立て」の始まりです。

 

お寺では、揚げ・蒟蒻・茸の刻んだものを寒天で煮凝り状にして、羮をこしらえました。それらが「精進料理」という名前で広まっていったのだとか…。

 

それをお菓子の世界で実践したのが「ようかん」。小豆やうるち米を利用して、水ようかんや蒸しようかん、或いは練りようかんなど、さまざまな羮(アツモノ)を作りました。それらはすべて、羊一匹から作る羮(アツモノ)に見立てたものなのです。だから、「羊羮」と書くのだそうです。

 

江戸時代の大阪人の教養の高さたるや、畏れ入るばかり! 現代の“お好み焼き・たこ焼き”に特化している風潮とはえらい違いや。尤も、それらコナモンは私、大好きですが(^o^ゞ

 

さて、この日のフォーラムでは、原典である羊の羮(アツモノ)を実際にこしらえ、ホールのお客様に披露し、そこへ精進料理の羮(アツモノ)も出して、見比べました。実は、そこで大どんでん返しがあったのですが、これは当日居合わせた人たちだけの秘密にしておきましょう(^-^ゞ

 

真言宗山階派、勧修寺佛向院の木村龍弘和尚が精進料理についての思いを語られた後は、福壽堂秀信の和菓子職人の松田淳さんが色んな種類の羊羮を持って来られ、お客さんとともに試食しました。めっちゃ美味しかった(^q^)

 

そうそう、美味しいという字の「美」は、羊に大きいと書くでしょ。太古の昔から、大きな羊は美しいとされていたのです。ユダヤ教でもキリスト教でもゾロアスター教でも景教でも…。そして、羊を熱したものこそ、やはり美しい。それが「羮」なのです!

 
上方ビルの入口(トリイホールの階下)に奉られている福寿弁才天も美しいですよ。

 

なお、今回の公演には国文学者で、早稲田大学の名誉教授でいらっしゃる鳥越文蔵先生もお見えになりました。鳥越先生は近松研究の第一人者であり、上方文化再生フォーラムの一番の理解者でもあるため、終演後、おでん屋「お多福」にお連れしました。この日は新潟の酒「八海山」で大いに盛り上がりました(^ー^) 先生との近松談義の話は、いずれまた☆☆☆

 
「お多福」で談笑する教養人のツーショット。
81歳の今も矍鑠(カクシャク)とされている鳥越文蔵先生と、洒脱な大阪人こと佃一輝宗匠。