2012.01.09 「十日戎の売り物は…」
正月休みが終わり、すぐにまた三連休──。会社勤めの皆様はこの休日はありがたいんじゃないでしょうか。元日からの何やかやの疲れが取れるし、年賀状の整理もできるしで…。でも、我々噺家はこの時期こそが書き入れ時。私はここ数日、明石市民会館~大阪・西成の動楽亭~近江八幡市文化会館と、「笑い」を提供すべく東奔西走しています。いずこも沢山のお客様にお越し頂き、誠に有難いかぎり(^ー^)/
近江八幡市文化会館の楽屋で部分入れ歯をはめる直前のざこば兄さん。それを見守る南光兄さんと私。気分はすっかりお正月…の鏡餅。
私の落語『稽古屋』に二挺三味線で花を添えて下さる枝代子ねえさんと高橋真喜ちゃん。
また、9日・10日・11日は「えべっさん」の縁日、十日戎です。特に関西は今宮戎・西宮戎・堀川戎など、戎神社は商売繁盛の福笹を受けるお客で活況を呈します。江戸で言えば「酉の市」にあたるような賑わいです。
ところで、上方の俗曲に『十日戎』という唄があるのをご存じですか? いわゆる端唄です。昔は花柳界ではよく歌われ、正月のお座敷には欠かせない曲でした。上方の噺家なら誰もが当たり前に口ずさんだもの…と、ここまで書いた時、横にいる弟子の米輝に「おい、君は十日戎の唄、知ってるか」と訊いたら、「知りません」と即答。「まず隗より始めよ」か…。よし、米輝より始めよう。私は彼の前で『十日戎』を繰り返し歌います。彼はそれを覚えるべく、只今悪戦苦闘中。歌詞は次の通り。
「十日戎の売り物は、はぜ袋に取り鉢、銭叺(ゼニガマス)。小判に金箱(カネバコ)、立烏帽子(タテエボシ)。茹で蓮、才槌、束ね熨斗(ノシ)、お笹を担げて千鳥足」
昔から十日戎の境内で売られていたものを羅列しただけの歌詞ですが、華やかな空気が伝わります(^ー^) 昔はこれらが福笹に付けられていたそうです。時代とともに少しずつ変わってきたんですね。でも、よう考えたら、私も言葉の意味がイマイチよく判っていないことが判明(^o^ゞ そこで、皆様にもちょっと言葉の解説を。
はぜ袋……はぜ(=ポン菓子)の入った袋。ちなみに、ハゼとは魚の鯊でも樹木の櫨でもありません。広辞苑によると「糯米(モチゴメ)を炒(イ)って爆(ハ)ぜさせたもの」とあります。
取り鉢……金銭を受け取る器。但し、米を掬う器と表記している解説書もあります。実は、よく分かりません。ご存じの方はご教示下さい(^_^ゞ
銭叺(ゼニガマス)……金銭の詰まった藁(ワラ)袋。叺(カマス)とは蒲簀のこと。古くは蒲(ガマ)の茎で作っていました。
茹で蓮(ユデバス)……蓮根の水煮。金を伸ばすという語呂合わせからの縁起担ぎからか。
才槌(サイヅチ)……小型の木槌。
どうでしょう。少しは歌詞の意味が分かっていただけましたか? メロディーを知りたい人は、どこかの試聴サイトで調べて下さい。お正月は寄席でも演奏されます。或いは、どこかで米輝を見つけて、彼に歌わせてやって下さい♪